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「朝岡さん、ね。相談ごとがあると聞いてますけど?」
「あの…」
言いにくそうに朝岡瑠璃葉は俯く。スカートをギュッと握り、決心したように顔をあげた。
「友達が…『ヨウコさん』に殺されそうなんですッ」
「『ヨウコさん』?」
万事さんが首を傾げる。
彼女は小さく頷いて、言葉を続けた。
「私の学校には、有名な怪談話があって…。学校には一つだけ使われてない教室があるんです。何で使われてないのかは分からないですけど、そこで夜九時ちょうどに二人で指切りをしながらお願い事をすると、『ヨウコさん』が命と引き換えにその願い事を叶えてくれるってものなんです…」
コックリさん…みたいなものか?俺は心で思ってみる。
「それを朝岡さんの友達がやっちゃったんですね?」
その万事さんの言葉に、朝岡瑠璃葉はまた俯いてしまった。表情は曇り、顔色が悪くなっていく。
「私の親友…佐嶋 遼(さじま はるか)が…三日前に私に電話をかけてきました。『ヨウコさんに殺される』って…慌てて家に行って事情を聞いたら、遊びでやってしまったと言いました。願い事はテキトーにって、一緒にやった子が好きな人とうまくいくように言ったみたいなんですが…」
「それが叶ってしまった日に…帰宅途中で車にはねられて死んでしまいました」
「!!?」
カタカタと小さく震えながら、朝岡瑠璃葉はスカートをまた握り締める。
優しい声色で万事さんが口を開く。
「今…佐嶋遼さんは?」
「外に出ることも出来なくなって、今は部屋にずっと…体は衰弱して痩せてしまってて…」
じわりと朝岡瑠璃葉の目に涙が浮かぶ。
涙が落ちて、グレーのスカートに黒い染みが出来た。
「小学校の時から…ずっと遼とは一緒だったんです…ッ傍にいて何も出来ないのが…とても悔しくて…!」
掠れた声で、朝岡瑠璃葉はそう言った。聞いてるこっちの胸が痛くなる。
チラッと稚鈴を見た。鋭い目付きで朝岡瑠璃葉を見つめている。観察するように、無感情の表情で。
万事さんはニッと笑った。
「分かりました。朝岡さんのご依頼として受けます」
「ほっ…ホントですか!?」
涙を溜めた瞳をあげ、本当に嬉しそうに顔を綻ばせた。相談所に来て初めての笑顔だ。
「あっ…でもお金…」
「我が社は『出来高支払い』でしてね、依頼が完了した時点で、依頼主に支払い代を決めてもらうんです。どれだけ少なくとも構いません」
「は、はぁ…」
朝岡瑠璃葉は気の抜けた返事を返した。
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