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「稚鈴、いつまでにカタがつきそうだ?」
万事さんは朝岡瑠璃葉の斜め後ろに立つ稚鈴に目を向ける。朝岡瑠璃葉はもちろん驚いて振り返った。
「周辺捜査もしたいので、二日いただければ充分かと」
猫かぶりの笑顔で稚鈴は微笑んだ。朝岡瑠璃葉は目を丸くした。
「嘘…この子が…?」
稚鈴の存在の意味を知った依頼人は、朝岡瑠璃葉と同じようなリアクションをする。次に来るのは万事さんの台詞。
「この子はこんなナリをしてはいますが、うちでは一番の働き者でしてね。頼りにしてる子ですから、心配するようなことはありませんよ」
「鐘乃音稚鈴です。よろしくお願いします」
これは二人のお決まり台詞。
「じゃあ…あの…」
朝岡瑠璃葉の視線は俺に移る。これもいつもの流れ。
「こいつは助手です。そこの稚鈴の」
これもお決まり台詞…『稚鈴の助手』。絶対的に俺の立場はよくないが、何も言わずに苦笑いを向けた。
「秋草鬼灯です…よろしく」
「秋草少年、朝岡さんを家まで送って差し上げなさい。出来れば被害者の佐嶋さんにも会ってきてくれると嬉しいなぁ」
人当たりのいい笑顔を向ける万事さん。俺には『朝岡瑠璃葉を送ったついでに佐嶋遼の様子を見てこいや、逃げんじゃねぇぞ』という副音声が聞こえる笑顔だ。
まぁ、それも諦めてるけど。
「えと、じゃあ行きます?」
「あ、はい。失礼します」
朝岡瑠璃葉は二人に一礼して、俺と事務所のドアを出る。
「どう見る?」
万事さんが煙草に火をつけて稚鈴に聞く。
「ふん…大したことないな。どうせ学校にいる馬鹿共が固って悪さしてるだけだろ。それがコックリみたいになっただけだと思う」
「だろうな。三葉学園の資料集めとくから、お前は…」
「分かってる。直接行ってみる」
「気ぃつけろよ?『おばけちゃん』が外にはウジャウジャいるからな」
「私に触れられる馬鹿は滅多にいない」
稚鈴はドアを開けた瞬間、また小さく溜め息を漏らす。
「だから学校は嫌いなんだ」
舌打ちをして呟くと、ドアを勢いよく閉めた。
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