悲劇の始まり

2/2
前へ
/67ページ
次へ
 . 「さくらちゃん、こんにちは。今日はちょっと歩いてみようか」  わたしが目覚めてすぐに医師と看護師さんが来て、医師がベッドの上にいるわたしに話し掛けてきた。 「……はぃ?」 「それじゃあ、ゆっくりね。僕の両手に掴まって」 「は?」 (いきなり、何を言ってるの? この医師、わたしを馬鹿にしてるの? わたし、普通に一人で歩けるよ!)  そう思ったわたしは、医師の言うことを聞かずに床へ両足をつけ、ベッドに体重をかけた両手を離した。  だけど、次の瞬間……。  バッターン!  ゴッ!! 「さくらちゃんっ!!」 「………!?」  一瞬、わたしは何が起きたのか、ちんぷんかんぷんだった。  看護師さんが慌ててわたしに駆け寄って来た。 (え……? 足が……動かない? 違う、足に力が全く入らない……。どうして……?)  足に力が入らなくて、倒れた拍子に床にぶつけた右頬を右手で押さえながら、わたしは呆然としていた。   「……さくらちゃん。君はずっとベッドの上で眠ってたんだ。だから、身体の筋力が衰えているんだよ」 「……え?」 「そして、さくらちゃんはこれから家に帰る為にリハビリをしなくちゃいけないんだ」 「医師……。わたしは15日間、意識無かったかもしれないけど、わたし、元気だよ……? 病院って、元気になったら、退院出来るんじゃないの……?」 「いくら元気でも、さくらちゃんの場合はまず、リハビリをして歩けるようにならないと退院出来ないんだよ……」  医師と看護師さん二人に身体を支えられながら、わたしはベッドの上に戻った。 「……ぅっ……ひっく……っ」  今、―――わたしは自分一人では歩けない……。  足はちゃんと二本あるのに……。  ……すごく、悲しかった。  すごく、辛かった……。  すごく、悔しかった……。  ―――わたしは久しぶりに、人前で泣いた。 .
/67ページ

最初のコメントを投稿しよう!

191人が本棚に入れています
本棚に追加