歩行器生活

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 .  数分後……。 「さーくらちゃん」 「はぁい」 「さくらちゃん。あれだよ」  医師は看護師さんが持っているものを指差した。  それは……。 「………えっ! “歩行器”……?」 「うん、そう。さくらちゃん、赤ちゃんの時に使ったでしょ?」  まぁ、確かに赤ちゃんの時に使ってたかもしれないけど……。  医師、わたしに赤ちゃんの時の記憶はありません。  赤ちゃんの時の記憶がある人って、ごく一部あるだよね? 「医師。これからわたし、歩行器で生活するの?」 「そうだよ。この台の上に体重をかけて、両手で身体を支えながらゆっくり歩くんだ。車椅子より大変だと思うけど、頑張ってね」 「……はぁい」  そして、わたしは車椅子を看護師さんに返し、その後すぐに歩行器を使うことになった。  看護師さんに後ろから身体を支えて手伝ってもらい、歩行器に両手を置いた。 「じゃあ、さくらちゃん。ちょっと私、さくらちゃんの身体を支えている手を3秒数えてから離すよ?」 「はい」 「1……2……3……はいっ」  看護師さんは言った通りに、3秒数えてからわたしの身体を支えている手をそっと離した。  そしたら……。 「……っ!?」  グラッ  ドテッ 「さくらちゃんっ!!」 「………!!!?」  看護師さんがわたしの身体から手を離したと同時に、わたしは歩行器と一緒に床に倒れた。 「大丈夫っ!?」  看護師さんがすぐにわたしに駆け寄り、わたしの身体を起こしてくれた。 「……まだ、さくらちゃんには歩行器は早かったかな」 「医師、両足動かない……。両足動かせない……。歩行器に両足がついていけない……」 「さくらちゃん。君は今日、初めて歩行器を使ったんだ。最初から全て、上手く出来る人間なんていないんだよ……?」 「……イヤだ。ヤダ、よ……。こんなのイヤだぁっ!!」  わたしは自分の置かれた状況を受け入れられなくて、パニックになってしまう。 「さくらちゃんっ。落ち着いてっ!」 「さくらちゃん。辛いのは分かるよ……。でも、これが君の“現実”なんだ……」 「……医師? こんな調子で、わたし……リハビリ出来るの……? 本当に自分の足で歩くことが出来るの……?」  「さくらちゃんの“歩きたい”という気持ちが強ければ、必ず自分の足で歩けるよ」 「………」  ……歩きたいよ。  わたし、“歩きたい”って強く思ってるよ。  でも、身体が心についていけないんだ……。  このままでわたし、歩行器生活を始めて本当に大丈夫なの……? .
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