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「―――しっかし、さくらの奴、いくら女でもトイレ長すぎない?」
(……ヤバッ!!)
「そうだな。極度の方向音痴だから、この病室に戻って来れないんじゃねーのか?」
「トイレ、この病室を出て右に行ったらすぐそこにあるけど?」
「さくらはアホだ!
自分の病室の番号分かんなくなったんじゃね?」
「さくら、聞いたら怒るよ。…まぁ、充分にあり得るけど」
(すいませーん。わたし、病室の前にいますー。お父さん、お母さん)
「ただいまぁ~」
わたしは空気を読んで、自分の病室に入った。
「トイレから戻って来るの、ずいぶん遅かったねぇ?」
「あははははっ。あれ、お父さん。来てたんだ」
「よっ! さくら。まさか、トイレからこの病室までの行き方が分からなかったんじゃないのか?」
「ち~が~い~ま~す~」
「どうだか」
すごい……。
お父さんもお母さんも、最初から何にもなかったかのように、わたしと話してる。
さすが親だな……。
―――その後、入院中は何にもなかったように振る舞うのは大変だった。
辛かった……。
だってあの時、わたしが女の子が大きな湖の先にいってしまうのを、ちゃんと止めれていれば……って。
悔やんでも悔やみ切れないよ……。
でも、こういうわたしのことを考えて何も言わないお母さんを見たら、くよくよしてられないって思った。
だけど、独りになったらわたしはベッドの中で布団をかぶって泣いた。
『……ゴメンね……』
……女の子に届いているか分からないけど、何回も何回もわたしは謝った。
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