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おっぱい
私は、寛を産んだ病院の助産婦さんに、『乳母体質』と言われた事があった。
産んだその日から、おっぱいはよく出て、逆に寛の飲む量が追いつかずに、マッサージで搾り出してもらわなくてはいけない程だった。
除去食で、体重が急激に落ちた時も、おっぱいだけは止まらないで出てくれていた。
凄くつまらない事でも、こんな体質の寛を産んでしまった自分の、唯一の誇れる事でもあった。
寛は私のおっぱいを求めて、大泣きに泣いて、ミルクに口もつけてくれなかった。
徐々に飲む回数を減らしていく、いわゆる『断乳』と違い、昨日までは当たり前のように飲んでくれる相手がいた私の身体も、それに対応出来ずに、胸は青筋がたってパンパンに腫れていた。
下着はつけられず、服が触っただけでも激痛が走った。
それでも、泣き続ける寛を抱きあげてあげたかった。
寛は私が抱くと、洋服をまくりあげて飲もうとしてしまう。
私たちの様子を、見るに見かねた私の母が、寛を連れて部屋を出ていった。
寛を産んで初めて、一人で寝る夜だった。
思えば、今まで一時間と寛と離れて過ごす事もなかった。
母の寝室から聞こえて来る、泣き止まない寛の声を聞きながら、私は涙が止まらず、寝付く事も出来なかった。
牛乳を飲む事ができない寛に、市販のミルクをあげる事は出来なかった。
アレルギー用のミルクは、簡単にお湯に溶ける事ができないので、看護婦さんに教えてもらったやり方は、とても手間がかかった。
消毒したボウルにミルクを入れ、お湯を少しずつ入れ、やはり消毒したホイッパーで、とにかくダマがなくなるまでかき混ぜる。時間にして5分はかき混ぜなければならない。
それを哺乳瓶に移して寛にあげる。
ミルク用品の消毒には、消毒液につけて置くだけとか、便利用品はたくさん出ているが、ボウルやホイッパーのような物まで消毒できる物が売り出されている訳はなく、これらが入る大きな金バケツを買って来て、そこ熱湯をはって消毒するしか手立てが無かった。
寛は二日目には観念して、ミルクに口をつけてくれた。
市販のミルクと違い、匂いもあり、不味そうこの上ないミルクを、不機嫌な顔で飲む。私のおっぱいを飲んでいた時の顔とは天と地ほどの差がある顔だった。
頼みも綱だった母は仕事に行き、私は、急激におっぱいを止めた事から来る『乳腺炎』という病気で、40度の熱の中での作業だった。
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