寛が生まれた日

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酷いつわり・切迫早産で、妊娠期間の半分以上を入院して過ごした懐かしい病室で一人、私は何度も襲って来る陣痛と闘っていた。   初めての出産。 気付いたら出血しているし陣痛感覚も2分になって来ている。   この日はお産が多いらしく、看護婦さんはバタバタしてて中々顔を出してくれない。 一人、どうしていいかも解らず、声一つあげれずにベッドにしがみついて、ただただ看護婦さんが来てくれるのを待っていた。   ようやく顔馴染みの助産婦さんが顔を出してくれた時、私はいわゆる『全開』状態だったらしい。   『もう少し痛そうな顔してもらわなきゃ困る』 なんて冗談とも解らないセリフを聞きながら、3人がかりでストレッチャーに乗せられ、分娩室に大急ぎで運ばれる。   たとえようのない激痛が続いたまま、分娩室に運ばれ1時間半。   赤ちゃんは出て来ない。   妊娠時期に何度も読んだ体験本にあった 『全開になれば後5分で出てくる』の言葉が頭をよぎる。   何かあるの…? 赤ちゃんに問題…? 看護婦さんがしきりに 『本当に誰にも連絡とらなくていいんですか?』 って聞いてたのは、誕生のお知らせじゃなくて別の意味合い…?   心細さも手伝って、不安は膨れ上がり、私は肉体的にも精神的にも限界になっていた。   いつの間にか周りには、院長先生と担当の先生が腕を組んで立っていた。   助産婦さんが私の上に乗っかった。   焼き裂かれているような痛みの中、何かが私の中から抜け出た感じがした。   産まれた?産まれたの??   産声は?   両目合わせて0.02しか視力の無い私には、助産婦さんが青白い何かを掴んで叩いている光景がボンヤリとしか見えなかった。   何か聞こうと思ったけれど、声がでなかった。   どの位の時間が流れたのだろう?30秒?5分?   静かな分娩室の中で、何かを叩く音だけが規則的に鳴り続ける。   突然、 『ギャー』と言う叫びの様なものが響き渡った。   産声!?   ここで初めて、看護婦さんから 『おめでとうございます。』と言われ、ホッと胸を撫で下ろした。   後から聞いた話では、首に三重にもヘソの尾が巻きついて危険な状態だったらしい。     それでも寛は、それに負けない生命力で、私の息子として誕生してくれた日だった。
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