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「なんだ?また失敗したのか?」
がちゃりと実験室のドアが開き、白衣に眼鏡の美人が入ってきた。
水野明子(みずの あきこ)。
この学校の錬金学教師にして、優一の担任である。
「まったく。エリクサーも満足に作れないようじゃ困るなぁ」
困ったように笑いながら明子は言う。
「普通の生徒なら、一時間のうちにビーカー五、六杯分ぐらいの量は作れるぞ?お前はどのぐらいだ?」
「……一杯です」
エリクサーとは、錬金術によって作られる液体で、飲んだら死者でもよみがえるという代物。それが一昔前の認識だった。
しかしそんなことは迷信に過ぎず、実際は薬草の調合によって作ることの出来る、一種の薬というのがその正体だ。
もっとも、薬としての効能が表れるのはその手の職人や製薬メーカー等、専門的知識や技術を学んだ者や会社が作ったものに限られる。
一介の高校生が作ったものでは、喉を潤すぐらいの効果しかないだろう。
「はぁ……。まぁいい。出来たものは私が見ておくから、お前はマンドラゴラを採ってこい。今日のところはそれで勘弁してやる」
「えー。裏山登らなきゃなんないじゃないですか。疲れますよ」
自分の失敗を棚に上げ、優一は文句を垂れる。
「ほほぅ。じゃあ私の実験に付き合うか?最近新しい薬を開発してな。毒かどうか確かめる為に人体実験を」
「行ってきまーす!」
優一は脱兎の如く実験室から逃げ出した。
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