回顧

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「『無』ってのはまだまだ分からないことが多いから、研究するにはそれ相応の設備が必要だ。神武大学なら申し分ない。 さらに俺は『無』持ちだから、実験も調査もやり放題。何かあっても自己責任で済む。自分の体のことが分かって、魔法学の発展にも貢献出来るってんなら一石二鳥だろう? それでいつかは、父さんみたいな学者になりたいな、と思ってる」 確固たる決意と将来の夢。その双方を、まるで無垢な少年のような顔で語っている。 いつも見せることのない表情だった。 「……って、ガキ臭いよな。高校生にもなって夢なんて」 優一ははにかむように笑った。 ついつい熱を入れてしまったことに、恥じらいを感じたようだ。 「ま、いいんじゃねぇか?」 稔は優一の肩を叩いた。 いじめられた原因である『無』という能力。 本来なら憎んでもいいくらいなのに、それを逆に利用し、ひいては謎を解明しようとも考えている。 まだ将来のことは考えられない稔にとって、そんな優一の姿は、何だか輝いているように見えた。 「よーし。俺も頑張るかなぁ!」 親友には負けられない。 真っ赤な夕日に向かって、稔は高らかに宣言した。 「……ねぇ」 操は優一の顔を見上げる。 「夢、叶うといいわね」 そして、子供の成長を見守る母親のような微笑みを向けた。 「……あぁ」 つられて優一も笑う。 「叶えてやるさ。必ずな」 夕日が照らす道を、三人は歩く。 明日も良い天気になりそうだ。
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