夕立に相合傘

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「せんせー、しつもーん」 どよめきたつクラスの中で、教卓の目の前に座っている稔が手を挙げた。 「なんで今の時期に席替えなんですか?」 それはクラスメート全ての気持ちを代弁した言葉だった。 「お前は伊達に私と一年間付き合ってる訳じゃないだろう?」 明子はきっぱりと断言した。 「気分だ」 ズルッ 教室のどこからかずっこける音がした。 年に一度のクラス替えによって二年A組がスタートしたわけだが、この教師が担任になったことを幸と見るか不幸と見るか。 もっとも、一年次から彼女を担任に持っている生徒たちは大して驚いてはいないが。 「クジはもう作ってあるから一人ずつ取っていけー」 明子はノートの切れ端で作ったクジを入れた袋を、窓際の列の一番先頭に居る男子に渡した。 「取ったら番号を言ってけー。適当に割り振ってくからなー」 「……ねぇ」 窓際から二番目の列、後ろから三番目に居る操が、隣の優一に話し掛ける。 「水野先生っていつもあんな感じなの?」 「うん」 優一は大きく頷く。 「あの人は恐ろしく気分屋だ。それが良いか悪いかは別だけどな。……よっと」 優一は回ってきたクジを引いた。 「まぁ、授業にはさしつかえないからいいんじゃない?クラス表を作るのは先生なんだしな」 こうして夏休み二週間前という特異なタイミングで、二年A組の席替えが始まった。
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