夕立に相合傘

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「えっと……立花さん?」 「は、はいっ!!」 立花千歳はびくりと肩を震わせると、恐る恐るという感じで優一を見た。 天敵に襲われた小動物の目。 千歳はそんな目をしていた。 「あっ、ごめん。びっくりさせちゃったかな?」 予想外の反応に優一は困惑した。 よほど自分は恐い顔をしているのか。 そんなことも思えてきた。 「あっ、えと……。すみません……」 しかし千歳は、今度は俯いて恐縮してしまった。 はた目から見れば、優一が千歳をいじめているような構図だ。 優一はますます困惑する。 「あー、うん。とりあえず」 とにかく用件は伝えておこう。 人を馬鹿にしたような顔をしている稔を無視して優一は続ける。 「これから暫らくの間よろしく。後ろがうるさくてもあんまり気にしないでね」 「はっ、はい!よろしくお願いしますっ!!」 千歳は深々と頭を下げた。 番長にひれ伏す下っぱ。 そんな表現がぴったりな姿である。 「じゃっ、じゃあ私は帰ります!さよならっ!」 千歳は勢い良く頭を上げると、慌ただしく教室を出ていってしまった。 「……よほど人見知りなんだろうか?」 嵐が過ぎた後のような静けさの中で、優一は頭を掻いた。 「嫌われちまったなぁ。優一ぃ」 相変わらずニヤケ面の稔。 「ほら見なさい。早速変なことしてるじゃない!」 なぜか怒っている操。 「だからなんでそうなるんだよ!」 悲痛な叫びが教室に響き渡った。
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