夕立に相合傘

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「ったく。ひどい目にあった」 優一はぶつぶつと文句を言いながら自宅の玄関を開けた。 帰り道、操はずっと機嫌が悪かった。優一が話し掛けようものなら有無を言わさず鋭い眼光で即座に射抜かれる。もちろん返答は無い。 これには優一もお手上げ。明日は怒りが鎮まっていますようにと祈るのが精一杯であった。 当然のことだが、稔は終始ニヤニヤと笑っていた。 「ただいまー」 「あら、お帰りなさい」 台所からパタパタと出てくる母、綾香。 優一はその優しい笑顔に少しは癒された……かも知れない。 「優一、ちょっと頼まれごとされてくれないかしら?」 「ん?お金のことは無理だよ」 「馬鹿おっしゃい。あなたに借りるほど我が家は貧乏じゃないわよ」 クスクスと笑いながら、綾香はエプロンのポケットからメモを取り出した。 「ニンジン……ジャガイモ……玉葱……。今日はカレー?」 メモに書かれた材料を見ながら、優一はふむふむと頷いている。 「えぇ。ストックがあると思ったら無かったのよ。買ってきてくれない?」 「OK。行ってくる」 別段断る理由もない。 快く引き受けた優一は、綾香に登校鞄を渡した。 「ありがとう」 「うん」 ニコニコとしている綾香に背を向け、優一は玄関のドアを開けた。 「何だか一雨きそうだなぁ」 空を見上げると、さっきの青空が嘘のようにどす黒い雲が立ちこめていた。 「まぁいっか。行ってきます」 「行ってらっしゃい。気を付けてね」 傘立てのビニール傘を引っ掴んで出発した。
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