90797人が本棚に入れています
本棚に追加
スーパーを出ると雨が降っていた。
雨粒がアスファルトの路面を叩き、瞬く間に水溜まりを形成していく。なかなか激しい雨だった。
夏の天気は変わりやすい。
（どうしよう……）
千歳は傘を持ってこなかったことを後悔した。
雨の勢いからすると、しばらく止みそうにない。しかし急がなければ母が困ってしまう。
「ええい、仕方ねぇ！」
千歳と同じように立ち往生を喰らっていた男性が、意を決して大雨の中を飛び出していった。
その後ろ姿はみるみるうちに色を変えていく。見えなくなる頃にはすっかりずぶ濡れになっていた。
「やれやれね……」
女性が一人ため息をつき、さっきの男性と同じように飛び出していった。
しかし行き先は違う。
その女性は入り口の正面に止めてある車に、大急ぎで飛び込んだ。
（いいなぁ）
自分にも車があれば。
千歳はそう思わずにはいられなかった。
しかし、無いものは無い。
諦めて濡れてかえるしかなさそうだ。
（どうか風邪を引きませんように）
そう願掛けをして出発しようとした時、
「あちゃー。やっぱり降ってきたか」
聞き覚えのある声がした。
「えっ？」
驚いて隣を見る。
「はろー」
そこには買い物袋を提げた優一が立っていた。
最初のコメントを投稿しよう！