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「つ、塚越君っ!?」
千歳は慌てて顔を伏せた。
もう癖のようになってしまっている。脊髄反射とも言えるだろう。
とにかく、簡単には治せない。
「なかなか激しいね。しばらく止みそうにないな」
優一は雨空を見上げ、続いて千歳を見る。
顔を伏せているため表情は見えないが、ひどく縮み上がっている。小柄な体がより小さく見えた。
周りの人間はどんな印象を受けるだろう。少なくとも、良くないことは間違いない。
「ふむ……」
優一は今、右手にビニール傘を持っている。念のためにと引っ掴んできたが、どうやら正解だったようだ。
(まぁ、仕方ないか)
自分が濡れるのは嫌だが、クラスメートを濡れさせるのも寝覚めが悪い。
優一は決断した。
「立花さん」
「はっ、はい!」
びっくりして顔を上げる千歳。
優一はその眼前にビニール傘を差し出した。
「これ、使ってよ」
「えっ……?」
千歳はおずおずと傘を受け取る。
「良かったら使ってよ。一応持ってきたんだ」
「でも……、塚越君は?」
受け取ったはいいが、自分が使ったら彼が濡れてしまう。
千歳は躊躇っていた。
「しょうがない。立花さんが使った方が有意義だと俺は判断した」
優一は困ったように頬を掻いた。
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