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「だ、ダメですよ!そんなの!!」
千歳は優一の顔を見上げた。
「これは塚越君の傘なんだから、塚越君が使ってください!」
そして強引に傘をつき返す。
「それこそダメだよ。女の子なんだから、自分の体は大事にしないと」
「ダメです!塚越君が使うべきですっ!!」
千歳の剣幕に、優一は思わずたじろいだ。普段のおどおどした態度とは明らかに違う。
少し潤んだ瞳は真っすぐに自分の顔を見ている。これでは優一も断るに断れない。
「うーん……」
しかしこのまま帰してしまうのは、やはり彼の良心が許さない。
「あ、そうだ」
そこで妙案を思い付いた。
「家まで送っていくよ。それならお互い濡れずにすむ」
「え?傘は一本しかないのでは……?」
「まぁそうなんだけど……」
優一は何だか歯切れが悪い。何とか察してくれと心の中で土下座していた。
「そうなんだけど?」
しかし目の前の少女は、ただただ首を傾げるばかり。
無垢を絵に描けばこうなる。そう言われれば納得してしまいそうな姿だ。
察してくれる様子は、一厘もない。
「……分かったよ。頼むから驚かないでくれ」
優一は観念したようにため息をつき、覚悟を決めて口を開く。
「俗に言う相合傘ってやつ。それを実行しよう」
「……」
しばしの沈黙。
「ええええええええっ!?」
今日彼女が上げた、一番大きな声だった。
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