夕立に相合傘

13/18
前へ
/396ページ
次へ
ビニール傘を雨が打つ。 音を立てて弾かれる無数の雨粒。 一本の傘を使う、優一と千歳。 その姿はカップルというよりも兄妹に近かった。 「立花さん」 優一は右手に傘、左手に買い物袋を持っている。 「な、なんでしょう?」 千歳は両手で買い物袋を持ち、俯き加減でおどおどした口調。肩をすくめてすっかり恐縮していた。 「もう少しこっちに寄ってくれない?この傘あまり大きくないから濡れちゃうよ?」 「い、いえ。そんな……」 首筋まで赤く染まる千歳。 こういうことには慣れていないのだ。 「そうは言ってもねぇ。俺の肩が際限なく濡れちゃうんだけど」 優一には下心があったわけではない。 やや離れて隣を歩く千歳に、優一は最大限に傘を傾けている。とりあえず顔と右半身はガード出来ているが、左半身は雨ざらしに近い。特に食材入りの買い物袋へのダメージは避けたいところだった。 「す、すみません!」 千歳は慌てて一歩近づく。 恐縮しきっている彼女にとっては、極めて平坦な優一の発言も弾劾の声に聞こえたらしい。 「OKOK。これで一安心だ」 空は相変わらず厚い雲に覆われている。 雨はまだまだ止みそうになかった。
/396ページ

最初のコメントを投稿しよう!

90797人が本棚に入れています
本棚に追加