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ビニール傘を雨が打つ。
音を立てて弾かれる無数の雨粒。
一本の傘を使う、優一と千歳。
その姿はカップルというよりも兄妹に近かった。
「立花さん」
優一は右手に傘、左手に買い物袋を持っている。
「な、なんでしょう?」
千歳は両手で買い物袋を持ち、俯き加減でおどおどした口調。肩をすくめてすっかり恐縮していた。
「もう少しこっちに寄ってくれない?この傘あまり大きくないから濡れちゃうよ?」
「い、いえ。そんな……」
首筋まで赤く染まる千歳。
こういうことには慣れていないのだ。
「そうは言ってもねぇ。俺の肩が際限なく濡れちゃうんだけど」
優一には下心があったわけではない。
やや離れて隣を歩く千歳に、優一は最大限に傘を傾けている。とりあえず顔と右半身はガード出来ているが、左半身は雨ざらしに近い。特に食材入りの買い物袋へのダメージは避けたいところだった。
「す、すみません!」
千歳は慌てて一歩近づく。
恐縮しきっている彼女にとっては、極めて平坦な優一の発言も弾劾の声に聞こえたらしい。
「OKOK。これで一安心だ」
空は相変わらず厚い雲に覆われている。
雨はまだまだ止みそうになかった。
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