夕立に相合傘

14/18
前へ
/396ページ
次へ
「ここはどっち?」 「み、右です」 「了解」 十字路を右に曲がる。 スーパーから少し入った住宅街の市道。 優一宅からはだいぶ離れていた。 「ここは俺も来たことがないなぁ」 「す、すみません。遠いですよね」 「いや、別にそんなことはないよ」 「そ、そうですか。すみません……」 ぎこちないやりとり。言葉のキャッチボールが出来ていない。 「ふむ……」 優一は千歳を見下ろす。 自分の顔色をちらちらと伺うように見ては、目が合うと素早く目をそらす。 「ねぇ、立花さん」 「は、はい!」 声を掛ければすぐに顔を上げる。 せわしなく動くリスみたいだな、と優一は苦笑いをした。 「な、なんでしょう?」 そんな優一の姿から不穏な空気を感じ取ったのか、千歳は心配そうに訊く。 「いやなに。立花さんてけっこう人見知りするのかなって思ってさ」 「えっ?」 千歳はぽかんと口を開け、はっとして顔を背けた。 「……そうですね。知らない人と話すのは苦手です」 (おや?) 初めて千歳の方から言葉を紡いだ。 優一はしばらく千歳の言葉に耳を傾けることにした。
/396ページ

最初のコメントを投稿しよう!

90797人が本棚に入れています
本棚に追加