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「ここはどっち?」
「み、右です」
「了解」
十字路を右に曲がる。
スーパーから少し入った住宅街の市道。
優一宅からはだいぶ離れていた。
「ここは俺も来たことがないなぁ」
「す、すみません。遠いですよね」
「いや、別にそんなことはないよ」
「そ、そうですか。すみません……」
ぎこちないやりとり。言葉のキャッチボールが出来ていない。
「ふむ……」
優一は千歳を見下ろす。
自分の顔色をちらちらと伺うように見ては、目が合うと素早く目をそらす。
「ねぇ、立花さん」
「は、はい!」
声を掛ければすぐに顔を上げる。
せわしなく動くリスみたいだな、と優一は苦笑いをした。
「な、なんでしょう?」
そんな優一の姿から不穏な空気を感じ取ったのか、千歳は心配そうに訊く。
「いやなに。立花さんてけっこう人見知りするのかなって思ってさ」
「えっ?」
千歳はぽかんと口を開け、はっとして顔を背けた。
「……そうですね。知らない人と話すのは苦手です」
(おや?)
初めて千歳の方から言葉を紡いだ。
優一はしばらく千歳の言葉に耳を傾けることにした。
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