夕立に相合傘

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「でかー……」 優一は圧倒されていた。 町の郊外にある高級住宅街。優一も存在は知っていたが、足を踏み入れるのは初めてだった。 「私の家は代々医者を生業としていまして……。見栄からか、こんな家を建ててしまったんです」 千歳の解説が入る。 大きな門の向こう側には広々とした庭がある。それを越えた先にある、大きな白い豪邸。 (まぁ、もともと良家の子女が通う学校だもんなぁ……) 優一は以前操を家に送り届けたことを思い出していた。 操の家は堀と塀に囲まれた立派な日本家屋。古風な作りではあったが、千歳のこれと変わらない豪華さを誇っている。 明神学園はこういう生徒が通う場所だということを、優一は改めて実感した。 「今日はありがとうございました」 千歳は深々と頭を下げた。 黒髪が零れるその様は、操のそれとはどこか違う可憐さを醸し出している。 「うん。また明日」 「はい。それでは」 千歳はニコリと笑って背を向け、家に向かって歩いていく。 優一はその後ろ姿が玄関に入るまで見送っていた。 「さてと」 優一は元来た方向を向く。 「……ここはどこでしょう?」 千歳のナビに従って来たはいいものの、帰り道を訊くのを忘れた。団地の奥まで来てしまったので、大通りがどの方向かも分からない。 頼りになるのは、己の微かな記憶のみ。 「まったく。今日は厄日かねぇ」 口ではそう言っているが、優一の顔は笑っていた。
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