地に潜む者

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四、五時限目は移動教室だったので被害はなかったが、六時限目の授業で最大の爆撃を受けてしまった。その中心に居たのが優一だ。 「なにを怒ってるのかさっぱり分からん。正直気持ち悪い。言いたいことがあったら言ってくれないか?」 優一は身を起こして操の方を向く。 「別に。怒ってなんかないわ」 訊かれてもぶっきらぼうに返す操。視線を向けようとも合わせようともしなかった。 そんな態度で『怒ってない』と言われても、あまり信用出来るものではない。 「まぁいいけどさ」 恐らく何も分からない。 そう思った優一は考えるのをやめた。 「塚越君、早く行かないと……」 隣から千歳がおずおずと声を掛けてきた。帰りの準備もばっちり出来ている。 「あぁ。そういえばそうか」 優一は教科書を閉じた。 「今日は遅くなりそうだから二人は先に帰ってよ。待たせるのも悪いし」 「言われなくてもそうするわよ」 操はがたりと椅子を鳴らせて立ち上がり、さっさと教室を出ていってしまった。 「わけわかんないなぁ」 優一は首をかしげるばかり。 「ま、女心と秋の空は変わりやすいってことさ。今日のところは俺に任せて、お前は安心して補習を受けてこい。じゃあな!」 品の悪い笑みを浮かべた稔は、優一の背中を一つ叩いて離れていった。 「女心と秋の空ねぇ。まだまだ夏真っ盛りだと思うけどなぁ」 「あの、そういう問題じゃないと思うんですけど……」 時刻は夕方と言ってもいいが、夏の日は長い。太陽が眠りにつくのはまだまだ先のようだ。
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