地に潜む者

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「じゃあいつも通り裏山でマンドラゴラ取ってきて。籠一杯な」 明子は手早く用件を伝えると再び机に向かった。 「了解です」 優一は床に転がっている籠を拾い上げる。本来は昇降口に置いておくものだが、あまりにも使う機会が多いために持ってきたものだ。 「えっ?えっ?」 二人を交互に見ながら困惑する千歳。 「あの、補習は……?」 「これが補習だよ」 ペンを走らせながら明子は言った。 「実験に必要な材料を取ってこさせる。それが私の補習だ」 「はぁ……」 千歳はいまいち理解出来ないという顔をしている。 「それとも何か?実験でもするか?」 顔を上げた明子の眼鏡がキラリと光った。 「と、とんでもないです!」 立花はわたわたと両手を振った。実験が苦手だから補習を受けるのだが、受けたところで苦手なのは変わらない。 明子の方式はある意味お得と言えるだろう。 「ほら。さっさと行こう。早くしないとここの掃除までやらされそうだ」 籠を小脇に抱えた優一が言う。 「は、はい!」 千歳は大きく頭を下げた。 「失礼します!」 「おーう。気を付けていけよ。塚越も一応男だから、変な気を起こすかもしれん」 「まったく。信用されてないなぁ」 優一は困ったように笑った。 「ま、ぱぱっと終わらせてきますよ。失礼します」 「ちなみに部屋の掃除は随時募集中だ。単位はやらんがコーヒーぐらいなら奢ってやるからなー」 明子の戯言を背中で聞いて、二人は錬金学研究室をあとにした。 「変わってるんですね。水野先生って」 廊下を歩きながら千歳は言う。 「いい加減そうに見えるけど、いい先生だと思うよ」 優一の顔は苦く笑っているが、別段嫌っている様子はない。 「信頼しているんですね」 「そりゃあもう。水野先生には足向けて眠れないよ」 何しろ一年生からの付き合いだ。数か月の千歳とは訳が違う。 優一の口調からは明子に対する思いが伝わってくる。それが千歳には羨ましくもあり、少しだけ、嫉ましくもあった。
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