地に潜む者

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「……なぜお前がここに居る」 優一は汗を拭いながら言った。 「ふふん。親友のピンチを放っておくわけないだろう?」 野球部員の向こう側に居た人物――高橋稔は、塀にもたれたまま笑った。 「金ならないぞ?」 どこまでも疑わしげな優一。 「お前なぁ。人の厚意は……まぁいいや」 稔は塀から背を離す。 「ま、待ってるのは俺だけじゃねぇし。な?桐生さん?」 「そ、そうよ!」 稔の脇からひょっこりと操が顔を出した。 「わざわざ待っててあげたんだから!感謝しなさい!」 そしてビシッと指を突き付けた。 「……」 千歳はぽかんとしている。 「あっついなぁ」 優一は籠を頭に被るようにして日差しを遮った。 「人の話を聞きなさいよっ!」 完全にスカした操は、取り繕うように大声を上げた。 その声に下校途中の生徒が何人か振り返ったが、当の本人は気が付いていない。 「いや、帰ってって言ったじゃん」 優一は籠を小脇に戻す。 千歳は相変わらずぽかんとしたままだ。 「まったく。友達の気持ちってのが分かってねぇなぁ」 稔は三人を交互に見ながら肩をすくめた。 「せっかく君たちの手伝いをしようと思って待ってたのに」 「えっ?そうなの?」 優一は操を見た。 「べっ、別に深い意味はないわ。大変そうだから……その……」 操は言ってるそばからみるみる赤くなっていく。 「と、とにかく!さっさと行くわよ!」 「なんだその剣幕は……」 優一は若干気押されている。 「いいから行くの!」 操は優一と千歳の間に割って入った。 その刹那、千歳に睨みを効かせることも忘れない。 「な、なんですか!」 睨まれた千歳も負けじと睨みかえす。操よりも背が低いため見上げるような格好となっているが、その迫力は負けていない。 「手伝ってくれるのは嬉しいんだけど……。まぁいいか」 優一は一人で歩きだしてしまった。 「あれ?俺また疎外感?」 稔はどこまでもついていない男である。
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