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夏の裏山は春とは違った趣があった。
春に芽吹いた葉は緑を息吹かせ、目一杯にその命を謳歌させている。人間で言えば青春に相当するだろう。
その命は適度な日陰を作り出し、人間にとっても憩いの場所となる。
動かなければの話だが。
「まったく。なんでこんな猛暑のなか山登りなんか……」
稔は大汗をかきながら山道を登っている。
「お前が自分で来たいって言ったんだろ……」
こちらも汗だくな優一。
いつもの姿とはえらく違う、暑苦しい様子である。
「空気がいいですね。やっぱり山という場所は」
さっきの様子は何処へやら、千歳は飛び跳ねるように登っている。
「それにしても長い山道ねぇ。マンドラゴラは何処にあるのよ?」
操は鬱陶しそうに髪を払った。しかし汗をかいている様子はない。
「くっそー。何で清純キャラは汗をかかぬのだ!」
「稔と同じ考えに辿り着くとは……。俺も落ち目かな」
野郎二人は前を行く令嬢の背中を眺めながら、ひたすらにその後を追う。
汗にまみれた男子二人と、爽やかな女子二人。
何とも希有な組み合わせである。
「っと。ここら辺でいいかな?」
少し開けた場所で優一は足を止めた。
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