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「ここ?こんな所に生えてるの?」
操が辺りを見回す。
あるのは太い大木と、長いぎざぎさとした葉を持つ植物だけだ。
「あるよ。ちゃんとな」
優一はその葉を掴んだ。
「よっこらしょっと」
掛け声と共にそれを引き抜く。地面から出来損ないの人参のような根が出てきた。
「これがマンドラゴラですか……?」
千歳は恐る恐るそれを見ている。
「そうだよ。まぁ引き抜いた時に叫び声を上げるなんて伝説もあるぐらいだし、気持ち悪いっちゃあ気持ち悪いかな?」
優一はマンドラゴラの土を払うと、小脇に抱えた籠の中に入れた。
「んしょ」
操も一つ引き抜く。
「私たちは普段こんなのを実験で使ってるのねぇ」
教科書で写真を見たことはあったが、現物を見るのは初めてだった。
操はマジマジとマンドラゴラを見つめている。
「手分けしてさっさと片付けちまおう。籠一杯採れば補習は終了だ」
優一は籠を置いた。
「見た目には食えそうなんだがなぁ……」
稔も一つ抜いて顔前に持ってきている。
「噛ってみれば?死んでも俺は知らないけど」
恐ろしいことをさらりと言う優一。
「……止めとくか」
稔はマンドラゴラを籠に放り込んだ。
「うーん……」
千歳も抜こうとしているが、なかなか抜けないでいる。どうやら相当大物のようだ。
「抜けませ……きゃっ!!」
引っ張っていた葉がぶちりと千切れ、千歳は盛大に尻餅をついた。
「大丈夫?」
優一が慌てて駆け寄ってくる。
「いたた……」
千歳は腰を擦っている。
「気を付けないと」
優一は千歳の手を掴んで立たせた。
「あ、ありがとうございます……」
(掴まれちゃったー!)
とりあえず平静を装ってはいるものの、心臓の高ぶりは押さえられない。
千歳は異性慣れしていない。まして男子に手を掴まれたことなど、これが初めてである。
(し、しかも塚越君に――)
「手、怪我してるの?」
頭上から声を浴びせられ、千歳は我に帰った。
「だ、大丈夫です!」
「そう?ならいいけど……」
(まったく。誰の為の補習なのよ)
二人の様子を横目で見ていた操は、やはり心穏やかではない。
理由など分からない。
ただ二人が仲良くしているのを見ると、無性に腹が立つのだ。
「あーもう!」
操は鬱憤を晴らすように、引っこ抜いたマンドラゴラを籠に向かって全力投球した。
「よっこいしょっと」
農作業じみた作業がなぜかしっくり来ているのは稔である。
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