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「土の精霊ですって……?」
校長は確か、結界を張って精霊が学校の外に出るのを防いでいると言っていた。
この裏山も一応学校の敷地内ではあるが、結界を破らなければ出てこられないはずである。
「ありえない。お爺ちゃんの力は、そんなに弱くない!」
『あぁ。あの結界かぁ?』
ノームは下卑た笑い声を上げる。
『あんな薄っぺらい紙切れみたいなもんで俺を妨害出来ると思ったのか?舐めんじゃねぇよ。人間風情が!』
「くっ!馬鹿にしてっ!」
操は瞬時に風を生成する。体外に溢れたエーテルは周囲の空気を巻き込み、主人の命あらば牙を剥く強力な武器となった。
「何だか知らねぇが、敵なのは間違いないようだな!」
稔も両手を広げ、手のひらでエーテルを発現させる。瞬時に紅蓮に燃える火の玉が作り出された。
『おっと。そうはいかねぇ』
エーテルの発現を見たノームは、千歳を掴んだ左手を三人の前に突き付けた。
「み……みなさん……」
千歳は苦しそうな表情を浮かべている。
「立花さんっ!」
エーテルを持たない優一には、助ける術は無い。
『動くなよぉ?動いたらこいつを握り潰すからな』
ノームは左手に力を込める。
「きゃあ!」
苦しそうな千歳の表情がさらに苦痛に歪んだ。
「くっ……」
人質を取られては手も足も出ない。
操は生成した風を霧散させた。
「くそったれがっ!」
稔は悔しさを押し殺すように火の玉を握り潰した。
『そう。それでいいんだよ』
ノームは千歳を放さない程度に力を緩め、腕を下ろした。
『本来なら無の能力者だけに用があったんだが、まぁいいだろう。シルフの仇も取ってやらねぇとな』
「シルフ……」
少し前に優一と操が倒した風の精霊。明神学園に怪事件を起こしたエーテルが具現化したものだが、どうやらこのノームもその一味らしい。
『ま、てめぇらを殺るのに最適なステージを用意してやる。こいつを助けたかったら、精々俺を見つけることだなぁ!』
ノームは豪快に笑いながら自分が出てきた穴に飛び込んでいった。
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