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「くそっ!」
優一はノームが飛び込んだ穴を跪いて覗き込んだ。
ぽっかりと口を開けたそれは、一体どこまで続いているのか分からない。下手をすれば奈落のそこまで一直線。そんな錯覚さえ覚えてしまいそうだ。
「いまいち状況が理解出来ないんだがな」
稔はいつになく真剣な顔をしている。
「色々と知ってそうだから、とりあえず教えろ。さっきのありゃあなんだ?」
「……少し前に怪事件があっただろ?」
優一は今まであったことを逐一説明した。
「ふぅーん……」
話を聞きおわってもなお、稔は理解しがたいという顔をしている。エーテルが具現化して意志を持つなど、普通はありえないことである。
彼が困惑するのも無理はない。
「にわかには信じられないことだが……見ちまったもんは信じるしかないな。とにかく今は立花さんを助けることが先決だ」
しかし、切り替えが早いのも稔の良いところである。
「そうだな」
優一は穴から目を離して立ち上がる。
「奴は西に向かって猛スピードで進んでいる。今はとにかく追うしかない」
「了解」
稔はニヤリと笑った。
「散々ボロクソ言われたからな。奴さんには一発喰らわせてやらなきゃ気が済まねぇ」
彼の体内では、きっと火のエーテルが燃えたぎっていることだろう。
「よし。早く行こう」
優一は操を見やった。
「お前どうした?さっきから話に加わっていないが……」
「えっ?あぁ……」
操はふと我に返ったように返事をした。心なしか、顔が明るく見えるのは気のせいだろうか。
「ノームを見つけて立花さんを助ける。分かったか?」
『立花さん』という単語を聞いた途端、操の顔が険しくなった。
「分かってるわよ。そんなこと」
(……?)
駄々っ子のような操の言動。いつもの彼女らしくないと優一は感じたが、今は構っていられない。
「出発しよう」
長かった日もそろそろ沈む。
辺りは暗黒が支配し始めていた。
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