地に潜む者

21/24
前へ
/396ページ
次へ
「くそっ!」 優一はノームが飛び込んだ穴を跪いて覗き込んだ。 ぽっかりと口を開けたそれは、一体どこまで続いているのか分からない。下手をすれば奈落のそこまで一直線。そんな錯覚さえ覚えてしまいそうだ。 「いまいち状況が理解出来ないんだがな」 稔はいつになく真剣な顔をしている。 「色々と知ってそうだから、とりあえず教えろ。さっきのありゃあなんだ?」 「……少し前に怪事件があっただろ?」 優一は今まであったことを逐一説明した。 「ふぅーん……」 話を聞きおわってもなお、稔は理解しがたいという顔をしている。エーテルが具現化して意志を持つなど、普通はありえないことである。 彼が困惑するのも無理はない。 「にわかには信じられないことだが……見ちまったもんは信じるしかないな。とにかく今は立花さんを助けることが先決だ」 しかし、切り替えが早いのも稔の良いところである。 「そうだな」 優一は穴から目を離して立ち上がる。 「奴は西に向かって猛スピードで進んでいる。今はとにかく追うしかない」 「了解」 稔はニヤリと笑った。 「散々ボロクソ言われたからな。奴さんには一発喰らわせてやらなきゃ気が済まねぇ」 彼の体内では、きっと火のエーテルが燃えたぎっていることだろう。 「よし。早く行こう」 優一は操を見やった。 「お前どうした?さっきから話に加わっていないが……」 「えっ?あぁ……」 操はふと我に返ったように返事をした。心なしか、顔が明るく見えるのは気のせいだろうか。 「ノームを見つけて立花さんを助ける。分かったか?」 『立花さん』という単語を聞いた途端、操の顔が険しくなった。 「分かってるわよ。そんなこと」 (……?) 駄々っ子のような操の言動。いつもの彼女らしくないと優一は感じたが、今は構っていられない。 「出発しよう」 長かった日もそろそろ沈む。 辺りは暗黒が支配し始めていた。
/396ページ

最初のコメントを投稿しよう!

90796人が本棚に入れています
本棚に追加