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「こんな所があったのか」
横穴を進んでいくと、突然開けた場所に出た。
まるでそこだけをくり抜いたような大きな縦穴。その底に優一は出てきたのだ。
垂直な壁の先には満月が顔を覗かせている。さっきの光はこの月の仕業だろう。
「登れるわけは……ないか」
何しろ地上が遠く見える程に高い壁だ。360゜ぐるりと囲んだそれに、足場らしきものは無い。羽でも生えていれば話は別だが、常人には到底登れるものではない。
「でも、ここが終点のようだな」
先に続く道はない。
ならばここにノームが居るはずだ。
「おい。居るんなら出てこいよ。俺は逃げも隠れもしないぞ」
返事はない。
どこかに身を潜めているのか、本当に居ないのか。
「立花さん、居たら返事を――」
「塚越……君……」
「!!」
今度は答えた。
蚊の鳴くような弱々しい声だったが、優一は聞き逃さなかった。
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