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「立花さん!!」
優一は急いで千歳に駆け寄った。
「こいつはひどい……」
千歳は両手首と両足首を土で塗り固められ、磔にされたような格好で捕らえられていた。顔からも疲労の色が見て取れる。
大分長い時間この状態でいたようだ。
「待ってて。今助けるから」
「だめ……です……」
千歳は弱々しい声を必死で振り絞る。
「塚越君の……後ろに……!」
「後ろ?後ろに何か――!!」
背中にピリピリと伝わってくる、殺気を帯びたエーテル。
言い終わるより早く優一は転がるように横へ跳んだ。
『はぁっ!!』
刹那、優一がもと居た場所に巨大な拳が降ってきた。
その拳は地面に深々とめり込む。
『ちぃ、外したか。てめぇの感知能力は甘くねぇようだな』
拳を抜きながら、ノームは言葉だけの賞賛を送った。
「……どこに隠れていた?」
優一の力を持ってすれば、この場所に入った瞬間に気付いてもいいはず。しかし、今の今まで気付かなかった。
優一は睨むようにノームを見上げる。
『なぁに。簡単なことさ』
笑うように言うと、ノームは壁に手をついた。
『よっと』
掛け声をかけると、その手がゆっくりと壁にめり込んでいく。
先程のように粉砕しているわけではない。壁を破壊せず、溶け込むように入っていっているのだ。
『俺は土の精霊。周囲の土と同化することぐらい造作もねぇんだよ』
「……なるほどね」
優一は制服の土を払いながら言った。
「土の精霊の力ってやつも、どうやら甘くないみたいだな」
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