地に潜む者②

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「桐生さん!」 顔に影が被る。 稔が心配そうな顔で自分を見下ろしていた。 よほど急いできたのだろう。大粒の汗を拭っている。 「高橋君……」 「遠くに行ってなくて良かったよ。さ、掴まって」 稔は操の手を掴むと、ゆっくりと引っ張って立ち上がらせた。 「ありがとう」 スカートのゴミを払いながら、操はおずおずと訊く。 「……優一は?」 「一人で突入してったよ。俺も行こうとしたけど、桐生さんを頼むって突っぱねられちまった」 それ以上のことは分からないと稔は肩をすくめた。 「そう……」 この期に及んでもまだ自分のことを心配してくれている。操は密かに嬉しく思った。 それと同時にのしかかってくる罪悪感。やはり自分は我儘な人間だ。 「助けに行かないのかい?」 突然そう問われた。 「え?」 「悪いと思ってるなら、助けに行かなきゃ」 稔はパチリとウインクをした。どうやら彼には全てお見通しらしい。 「うん……」 それでも、操はまだ逡巡していた。 助けに行きたい気持ちはある。けれど怒られるのは怖い。 自業自得なのは分かっている。だけど、あの優しい相貌が憤怒に歪むのを見たくなかった。 「だめだ……。私にはそんな資格ない……」 (っとに、不器用なんだからなぁ) いまいち踏ん切りのつかない操に向かって、稔は引導を渡すように言い放った。 「怒られるリスクを回避して優一を失うのと、怒られるリスクを犯して優一との学園生活をエンジョイするの。桐生さんならどっちを選ぶ?」 「!!」 操は愕然とした。 優一がピンチなことに変わりはない。自業自得と分かっているなら、直ぐ様行動に移すべきだ。 目の前の出来事を怖がって優一を失う。 そんなのは、絶対に、 (嫌っ!!) 操はもと来た道を駆け上がっていった。 「優一にゃあジュースの一本くらい奢ってもらわなきゃな」 ため息をついて稔は嘆く。 「まーったく。割に合わない仕事だぜ」 しかし、その顔は笑っていた。
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