地に潜む者②

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「優一っ!」 「大丈夫か!?」 操と稔は優一に駆け寄る。 「遅かったな……」 優一は荒い息をしている。脂汗もかき、顔色もすこぶる悪かった。 「何をされたの!?」 操は優一の背中をさすりながら訊く。 「ノームに毒を盛られてな……うまくはめられちまったよ……。つっ!!」 優一は歯を食い縛って苦痛に耐えているようだった。無理をしているのは、誰の目から見ても分かる。 「早く処置しねぇと!」 今度は稔がしゃがみ込む。 「出来ないよ……エーテルに乗せられた毒じゃあ……な」 「そんな……」 エーテルに乗せられた毒というのはよく分からないが、恐らくエーテルを吸収する能力を利用されたのだろう。 ノームはわりと頭が働くらしい。 もし、自分が素直に来ていたら、優一はこんな目に遭わなかったのではないか。 「ごめんなさい……」 自責の念に駆られた操は、そんなことを口走ってしまった。 たらればを考えても仕方ないことは分かっている。 しかし、謝らずにはいられなかった。 「そういうのはまた今度にしよう……」 そんな操に向かって、優一は力強く笑ってみせた。 『飛んで火に入る夏の虫たぁこのことだなぁ』 いかにも馬鹿にした口調でノームは言う。 『本当はもう少し早めにやっといても良かったんだが、まぁいいだろう。役者は揃った訳だし、な!』 言い終わるのと同時に壁を叩く。途端に壁が振動し、洞窟への入り口が塞がれた。 崩れ落ちたのではない。まるで元から穴など無かったかのように、痕跡も残さずに、無くなってしまったのだ。 『さぁ、これで出口は無くなったぜ?俺が死ぬか、お前らが死ぬか。デスマッチといこうじゃねぇか!』 ノームは自分の拳を叩きつけた。 「つくづくひねくれた野郎だ」 稔は忌々しげにノームを睨み付ける。 「やってやろうじゃねぇか。無論死ぬのは、貴様の方だがなっ!!」 稔の体が深紅の炎に包まれる。彼の怒りがエーテルに影響したのか、いつにも増して燃え上がっている。 「俺は参加出来そうにないが……立花さんを助けてあげてくれ……」 優一はそれを言い終えると、再び苦しそうに胸を押さえた。 「分かったわ」 操は優一の背中から手を離して立ち上がる。 同時に風を生み出し、それに乗る。 「待ってて!すぐに助けてあげるからね!」 黒髪をはためかせながら、操はノームへと飛んだ。
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