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「待ってて下さい。すぐに治します」
千歳は握った手を両手で柔らかく包み込んだ。
「な、なにを――」
「喋らないで下さい。体に障ります」
優一の問いに答えることなく、千歳は念じるように目を瞑った。
(ん……?)
優一は体の変調を感じていた。
体内のエーテルが活性化している。優一が持っているエーテルは、ノームがもたらした毒付きのもの。それが活性化しようものなら、体中に回った毒まで活性化してしまう。
しかし、そのような感じは全くなかった。むしろその逆だ。
体に進入した細菌を白血球が攻撃するように、エーテルが毒に攻撃しているようだった。
冷たかった手から温かさを感じる。どうやら千歳が何かしているらしい。
気付けば苦しさはすっかり無くなり、呼吸も落ち着いていた。
「あれ?顔色が良くなってる?」
操の言うとおり、顔にも血の気が戻っていた。
「……毒はすっかり無くなりました。これでもう大丈夫」
千歳は優一の手を離した。
「ありがとう」
優一は握られていた手をまじまじと見つめる。
「エーテルに何かされたのは初めてだ。もしかして、魔法医療?」
「はい」
千歳は穏やかに微笑んだ。
「傷を癒すだけが魔法医療ではありません。ちょっと応用すれば、体内の異常だって治せるんです」
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