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「よぉし。あとは俺の仕事だな」
優一は膝に手をついて立ち上がった。
「さっさとノームを倒さなきゃな。怒り心頭みたいだし」
優一の視線を追うように他の三人もノームを見る。
『許さねぇ……許さねぇぞ……』
ノームは怒りに震えていた。
『散々俺をコケにしやがって!てめぇら皆殺しにしてやる!!』
目の黄色い光は赤に変わり、エーテルも昂ぶっているようだ。
片腕の先を失っていると言っても、まだまだ力は衰えていない。
「体中からエーテルが噴き出してやがる。どんだけモンスターだよ」
「あっ、私も手伝い――」
「いや。結構」
加勢を申し出た千歳を、優一は片手で制した。
「さっきノームの片腕を奪った時に、大半のエーテルを消費したんじゃない?立花さんからあまりエーテルを感じないし」
「……分かります?」
「伊達に『無』を持ってるわけじゃないからね」
続いて操と稔を見る。
「二人も残りエーテルが少ないみたいだな。ちょっと力を温存しといてくれ」
「勝算はあるのかよ?」
稔が訊く。
しかしその質問とは裏腹に、心配の念は微塵も感じられない。
「無かったら言わないさ」
優一は自分の胸を叩いた。
「ゴーレムから十分すぎるぐらいのエーテルを吸収したからな。毒こそあれど、一応は精霊のエーテル。負けやしないさ」
口調から漂う絶対的な自信。
皆を安心させるそれは、決して強がりなどではない。
「……優一」
そんな優一を操は頼もしく思う。しかし、それで納得するのも何だか悔しかった。
「危なくなったらちゃんと言いなさいよ。助けてあげるから」
自分は守られるだけの存在ではない、ということらしい。
その主張を聞いた優一は、
「……ふっ」
鼻で笑って背中を向けた。
「なっ、なによ!言いたいことがあるならちゃんと言いなさい!!」
操の怒りを背中で受けとめる。
「流れ弾が飛んでくるかも知れない。その時はお前の風で二人を守ってやってくれ」
そう言い残し、優一はノームへと向かう。
背中を預けられる友が居る。だからこそ、自分は思い切り戦える。
しかし、優一はその想いを表に出すことはない。
彼はやはり不器用なのだ。
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