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散々な目に遭った穴を抜け出し、満月の下を翔ぶ。
目指すは学園の校庭。
帰りの都合も考えると、穴のすぐ傍で下りるよりも学園まで行った方が良いと考えた為だ。
エーテルの残量が少ないと言っても、操のそれと常人のそれでは桁が違う。
風で自分たちを包み込み、中を安定させる。外では風が猛っているが、中は本当に静かなものだ。
球体の台風とも言うべきか。
「……まったく」
その中心で操は愚痴っていた。
「ただでさえ疲れてるのに、何でこんなことまでしなきゃならないのよ」
「仕方ないだろ。お前が適任なんだから」
後ろから優一の声が飛ぶ。
「あんたねぇ……って寝転がりながら言うんじゃないわよっ!!」
振り向くと、優一はどこぞの親父のように寝転がっていた。
これで晩酌でもあれば、まさに親父そのものだろう。
「無理無理。毒に犯された上にハードな戦いだったんだ。精魂ともに尽きましたよ」
親父は大きな欠伸をした。
発言からは、精魂ともに尽きている感じは全くしない。
「もう……」
操は再びため息をついた。
とは言え、今回のことは自分にも責任がある。自分がわがままを言わなければ、優一は毒を盛られずに済んだかも知れないのだ。
そういう罪悪感はあるものの、今の優一を見ていると何故か頭に来た。
「戦ってる時は、もう少しマシなのに……」
誰にも聞こえないような声で、操は呟く。
決して『格好いい』とは言わない。
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