地に潜む者②

30/35
前へ
/396ページ
次へ
「桐生さん」 千歳が自分の前に歩いてきた。 「……なに?」 何となく、気まずい。 つい口調がきつくなってしまった。 「今日はすみませんでした」 しかし、千歳は臆することなく頭を下げた。 「私が捕まってしまったばっかりに……」 「あれじゃあ避けろって言う方が無理よ。立花さんは悪くないわ」 本当に千歳は悪くない。むしろ非は自分の方にある。 分かっているからこそ、ついつい口調がきつくなってしまう。 「おいおい。謝るのは操の方じゃないのか?」 そこに水を差す人物が一人。 「え?ちょ、何言――」 「お前、助けに行きたくないとか言ってただろ?立花さんにはきちっと謝っとけ」 優一は意地悪そうな笑みを浮かべながら、きっぱりと言い切った。 「えっ?そうなんですか?」 驚く千歳。 その顔に不審の色はない。どうやら素直に驚いているようだ。 「い、いやね?もともと優一が悪いっていうか……。もー!高橋君!!」 狼狽している操はうまく説明出来ない。代わりに、事情を理解しているだろう稔に助けを請う。 「うーん……。桐生さんの気持ちは分からなくはないけどねぇ。ここはやっぱり、きちんと落とし前をつけといた方がいいと思う」 しかし稔は要請に応じることはなかった。やはり事情は理解しているのだろうが、味方にはなってくれないらしい。 「そんな……」 唯一の味方にも見離され、操は絶望の淵に立たされた。 「……なるほど」 そこに追い打ちをかけるように降ってくる、新たな声。 「な、なによ?」 壊れたロボットのようなぎこちない動きで首をねじり、操は声の主に向き直る。 「なんとなく分かりました。つまり『そういうこと』なんですね」 稔の発言を受けて、どうやら事情を理解したらしい。 千歳は深く深く頷いていた。
/396ページ

最初のコメントを投稿しよう!

90797人が本棚に入れています
本棚に追加