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「失礼します」
明仁に向かって一礼すると、優一は校長室の扉を静かに閉めた。
「はぁー……」
途端に、稔が大きく息を吐く。
「なんか無駄に疲れたぜ……」
「本当ですね」
どうやら千歳も同じ気持ちだったらしい。
冷や汗でもかいていたのだろうか、額をぬぐった。
「なんというか、貫禄が違いますよね。さすがは学校を統べる人だなぁと」
「そうか?俺的には普通のおっさんだけどな」
優一は平然を通り越して緊張感の欠片も無い。肝が据わっていると言えば聞こえは良いが、礼儀をわきまえてないと言えなくもない。
「ま、校長先生も言う通り、明日から夏休みだ。しばらくはまったり出来るだろう」
「本当にそうなの?」
操は悪戯っ子のような笑みを浮かべて優一を見上げる。
「補習とかあるんじゃないの?」
「どうやらお前は相当俺のことを見くびっているらしいな」
優一は操を訝しげに睨み返す。
「そりゃあ錬金学に関しては万年ビリだがな、そのツケはその都度払ってきてる訳よ。つまり俺には、平穏かつ充実した夏休みを送る資格がある――」
「ほほぅ。本当にそうと断言出来るのか?」
後ろから、聞き慣れた声がした。
「……と思うんですけど、どうでしょう?」
語尾を若干弱めながら、優一は恐る恐る振り返る。
「無いから言ってるんだが?」
水野明子は不敵に笑っていた。
白衣をはためかせ、腰に手を当てている。
優一には悪魔の化身に見えたに違いない。
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