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『お?なんだ、元気が無いなぁ』
「夏休み中にまで先生の声を聞いたら、そりゃあ元気も無くなりますって」
『嫌よ嫌よも好きのうちってな。先生嬉しいぞ!』
不快感を全面に押し出したが、明子の対応は変わらなかった。むしろ優一の反応を楽しんでいる節がある。
(無駄だったか……)
さすがと言うべきか、やっぱりと言うべきか。
徒労に終わった自分の行動にため息を漏らし、優一は本題に切り込む。
「で、用件はなんですか?」
『今から錬研に来い』
まるで友達を遊びに誘うような声だ。しかし最後は命令形で締めている。
どう考えても勧誘の電話ではない。
「なんで学校に?」
錬研というのは錬金学研究室の略である。ということは、明子は学校に居る。
一体何をしているのか。
『いいから来い。来れば分かる』
優一の問いには答えず、明子は電話を切った。
「……」
しばらく携帯の画面を見つめていたが、それは無意味なことであると気付く。
明子が何をしていようとも、自分は行かなければならない。サボろうものなら、それこそ何をされるか分からない。
あの人は絶対にサディストだ。
そう思っている優一にとって、選択の余地はない。
「……行くか」
優一は決意して立ち上がる。
窓の外では、太陽が流れてきた雲に隠れ、薄暗い影が差していた。
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