90796人が本棚に入れています
本棚に追加
「それにしても、いきなりポニーテールなんてどうした?」
歩きながら優一は訊く。
「長髪は暑いのよ。お手入れも大変だし」
操は弾むように歩く。
ぴょこぴょこと動く髪が幼さを醸し出していた。
「だったらわざわざ伸ばさなきゃいいのに……」
「あなた、女心ってものを分かってないわねぇ」
操は人差し指を振った。
「髪は女の命。それをばっさりいくなんて考えられないわ。だから、どんなに大変でもお手入れするの。お分り?」
「分からん」
さして興味もない風に、優一は言った。
「まぁ女が大変な生き物ってのは分かった」
「当たり前でしょ。一応お嫁さんになるんだから」
「……」
優一は片眉をぴくりと動かし、操を見下ろす。
「まぁ、貰い手……いや。拾い手がありゃいいな」
言ってはいけない一言。
優一はそれを理解していなかった。
「あんたねぇ……」
操のポニーテールがふわりと持ち上がるように動く。
重力に逆らった、あまりに不自然な動き。風が吹いたのではない。
操が風を起こしたのだ。
「ほんっとに、女心ってものを分かってないわね……」
「あー。こりゃやばいかね」
言うや否や、優一は脱兎のごとく駆け出した。
「待てええええええっ!!」
その後を無数の風の刄が追っていったのは、言うまでもない。
最初のコメントを投稿しよう!