真夏日の呼び出し

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実験棟に人の姿は無かった。日当たりもそれほど良いとは言えないため、外に比べると一段と涼しく感じられた。 それと同時に、こんな所で明子が一体何をしているのかと、少し薄気味悪さも感じる。 「せんせー。来ましたよー」 優一は錬金学研究室の扉を勢い良く開けた。 「うわっ!」 中は、まさに惨状だった。 散らかっているのが常の部屋だが、今日はさらに磨きが掛かっている。 通路には一体どこから湧いて出てたのか、というくらいの本が山積みにされ、足の踏み場もない。 実験道具はどこかに移されているようだ。 そして何よりも悪いのが、室内の空気。 埃が舞い、火でも焚いているのかというぐらい淀んでいる。 「ひどいわねぇ……」 口と鼻を手で覆いながら、操はゴミ溜めのような部屋に一歩踏み入る。 「せんせー。どこですかー?」 優一も顔をしかめながら入った。 こんな部屋にいつまでもいたら、健康に害を及ぼすのは間違いない。 「おー。二人とも来たか」 部屋の奥の方から、明子がひょっこりと姿を現わした。 「先生、その格好は何ですか?」 操が訊くのも無理はない。 明子は白衣こそいつものとおりだが、防塵マスクを付け、眼鏡の上から安全ゴーグルを掛け、手には作業用の革手袋と、おおよそ錬金学の教師とは思えない姿だった。 「色々と取り込み中なの。お前らもこれ付けろ」 明子は白衣の左右のポケットに両手を突っ込み、何かを投げてよこした。 「わっ」 「おっと」 二人が慌ててキャッチする。 操が受け取ったのは防塵マスク、優一が受け取ったのは安全ゴーグルと軍手だった。 「これを装備しろと?」 優一は安全ゴーグルを指で摘んで左右に揺らしている。 「当たり前だろ。こんな空気の悪い所に居たら肺が悪くなる。埃だって目に入ったら痛いだろ。まぁ、埃で鼻くそが真っ黒になってもいいってんなら、そのままでも構わんが?」 「……」 「……」 二人は大人しく従った。
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