真夏日の呼び出し

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「で、先生は何をやってるんですか?」 装着を終えた優一は自ら霧払いとなり、本の山を押し分け押し分けて明子の元へと歩いた。 その後を操が続いたのは言うまでもない。 「何って見て分からないか?錬研の片付けをしてるんだよ!」 明子は足元にあった段ボールを引っ繰り返した。 中からはおびただしい量の本が雪崩となって床に落ちる。 「せっかくの夏休みだからな。たまには大掃除でもしようかと」 明子は段ボールをもう一つ持ち上げた。 「ほら、お前たちも手伝うんだよ」 「まさか、そのために呼んだんですか!?」 操が声を張り上げる。 が、防塵マスクのせいで声が籠もり、些か迫力がない。 「他に何があるってんだ?」 想定の範囲内とでも言いたげに、明子は段ボールを引っ繰り返した。 「信じられない……」 研究室というのは教室と同じように、確かに生徒が掃除をする。しかし、これは別だ。 ここにあるものの大半は恐らく明子が持ち込んだもの。錬金学の書籍か何かだろう。 だったら明子が自分で始末をするべきである。生徒を使うなんて言語道断だ。 「信じられなくても、やるしかないんだよ」 操のしかめた顔を見ながら、明子は面白そうに笑う。 人に頼みごとをする態度とは到底思えない。 「やめとけ。何言っても無駄だよ」 優一がそっと耳打ちをする。 「~~!!」 出かかっていた声に蓋をされた。 出口を失った怒声は行き場を失って肺に戻る。そこから血液に乗って体中に怒り成分を撒き散らし、やがて震える手から放出された。 「覚えてなさいよ……」 「俺に言われてもなぁ」 操のやり場の無い怒りをしかと受け止めた優一は、お手上げと言うように苦笑いを浮かべた。
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