真夏日の呼び出し

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「準備完了だな。塚越はあの辺の本棚を適当に空けて、桐生はその辺の本を紐で縛ってくれ」 何とも適当な指示を飛ばす明子。 「ういーっす」 「分かりました」 二人も適当に配置についた。 「でっかい本棚だなぁ」 悠然と居座るそれは、図書館にあるようなものと大して変わらない。 この狭い部屋には、些か不釣り合いとも言える。 「よっと」 優一は踏み台を使って頂上の棚の片付けに取り掛かる。 「はぁー。なんでせっかくの休みにこんなことしなきゃならないのよ……」 優一の足元で片付けを始めた操は、まだ文句を言っていた。 「それは私も一緒だな。なんでこんなことやらなきゃならんのか」 明子も少し離れたところで本を縛っている。 「普段から片付けておけば良かったんじゃないですか?」 「愚問だな。それが出来ないから今やってるんじゃないか」 「やらないんじゃなくて?」 「んー。そうとも言う」 口調から察するに、どうやらこれからもやるつもりはないらしい。 もしかしたら、長期休暇の度に呼び出される可能性もある。 「はぁー……」 そう考えると、憂鬱な溜め息が漏れた。 「もう。しっかりしてふぎゃっ!!」 突然脳天に激痛が走った。 視界がぶれ、頭がくらくらとする。涙も出てきた。 「いったーい……。なんなのよっ!」 目の前には今までは無かった本が転がっていた。 『錬金学辞典』と銘打たれたそれはとても分厚く、うっすらと埃を被っていた。 上から降ってきたということは、犯人は確定している。 「優一!何するのよっ!!」 操は涙目で優一を見上げた。 「んあ?居たのか?」 優一はすっとぼけた声を上げた。 手にもう一冊本を持っているところを見ると、どうやら第二弾の爆撃を発動しようとしていたらしい。 「どう考えてもわざとじゃないのっ!!」 こうなっては、操も容赦はしない。 優一の乗っている踏み台を思い切り蹴飛ばした。 「わわっ!止めんか馬鹿っ!!」 優一はバランスを崩しながらも何とか足から着地した。 「まったく。遊び心ってのを分かってないなぁ」 「受けた身にもなりなさいよ!!」 「おーい。早くしないと帰りが遅くなるぞー」 錬金学研究室は、まだまだ片付きそうにない。
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