真夏日の呼び出し

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「それにしても先生、よくこんだけ本集めましたねぇ」 出しても出しても量が減らない本棚。 片っ端から床に落としているため、優一の足元には本が散らばり、うず高く山を作り上げていた。 果たして踏み台から降りることは可能なのか。それは定かではない。 「授業の足しにでもなればと思ったんだがなぁ。よく考えたら私仕事は嫌いだったんだわ。あっはっはっ!」 明子は悪怯れる様子もなく豪快に笑った。 「本当に、しっかりして下さいよ……」 操は己が一族の統べる学園の未来を嘆いた。代わりの教師が居るのなら校長である祖父に直談判も辞さないが、実際はそうもいかない。 錬金学とはその名の通り『錬金術』と流れを組む学問である。錬金術と一言でいってもその用途は多岐に渡るもので、エリクサーのような薬品を作る場合もあれば、鉱物から金を作り出そうと試みる場合もある。 また、最近では『ホムンクルス』と呼ばれる人工生命体を作り出そうという研究も進んでいるため、生物学や生命倫理といった分野の知識も必要だ。 さらに、これら全ての根幹であるエーテルの知識も欠かせない。 このように、錬金学には様々な分野の知識が求められるため、その習得にはかなりの難易度が伴うのだ。 その見返りと言っては語弊があるかも知れないが、研究職から民間企業まで引く手は数多。わざわざ教師になろうという者は少ない。 実際のところ、錬金学の教師が居ないために、わざわざ受講料を払って教師を連れてくる学校も少なくないという。 そう考えれば、こうして明神学園に専属で居てくれる明子の存在は有り難い。 それに、曲がりなりにも錬金学を習得しているのだ。 優秀な人物であることには間違いない。 「心配しなくても、やるべきことはやってるさ。部屋の散らかり具合はご愛敬だよ。あっはっはっ!」 「……」 能ある鷹は爪を隠すと言うが、この教師にはそもそも爪があるのか。 操は答えに窮する他なかった。
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