真夏日の呼び出し

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「しかし暑いなぁ」 明子は白衣の袖で額の汗をぬぐった。 狭い部屋に三人も人間が居るのだ。熱気が発生するのも無理はない。 窓は開けているが、ほぼ無風状態。あまり意味を為していなかった。 「そうだ桐生」 「はい?」 明子は近くで本を積み重ねていた操に声を掛けた。 「お前の魔法は確か、風だったよな?」 「えぇ。そうですけど……」 と言ったところで、操はしばし手を止めて思考を巡らす。 「……まさか風を起こしてくれって言うんじゃないでしょうね?」 「ご名答」 明子の目が弓なりにしなる。 「先生、私はエアコンでも扇風機でもないんですよ?」 「いいじゃないか。減るもんじゃなし」 反論を試みたが、聞く耳を持たない人間には意味がない。明子は顔を突き出して催促をしている。 「はぁー……。どうしてこうなるのかしら?」 ため息を孕ませてそよ風を精製した。この程度なら、特に構えも集中も必要ない。 「うひょー。涼しいねぇ」 明子の長髪が穏やかに靡く。 表情も優雅だったら良かったのだが、明子は仕事帰りに中ジョッキを煽ったサラリーマンのような表情をしていた。 うっとりと言うには、少々上品さが足りない。 「風ってのは便利だよなぁ。電気代も掛からないし」 「だから私はエアコンじゃないです!!」 操は一喝するとエーテルの放出を止めた。 途端に風が止み、辺りには熱気が舞い戻ってきた。 「えー?もう終わりかよ。けちんぼだなぁ」 「だったら自分でうちわでも使って下さい!!」 「おや?なんだこれは?」 一人黙々と作業を続けていた優一は、本棚の奥から何かを見つけた。
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