真夏日の呼び出し

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「写真……?」 それは古めかしい写真立てだった。中に入っている写真には、一組の男女が映っている。 「誰だろう」 男性はいかにも柔和で優しそうな人だ。穏やかに微笑み、女性の肩に手を置いている。 女性は赤ん坊を抱いていた。性別は分からないが、まだ生まれて数か月という感じだ。おそらくこの二人の子供だろう。 何にせよ、とても幸せそうな写真だった。埃を被ってはいるが、まだまだ幸せさは滲み出ている。 「先生、ちょっとちょっと」 優一は手招きして明子を呼び寄せた。 「ん?どした?」 「本棚を整理してたらこんなものが」 踏み台の上から写真立てを渡す。 「写真?」 明子は眼鏡のフレームを指で上げた。 「なになに?」 操も隣から覗き込む。 「ふーん……。新婚さんですかね?」 操は何やら羨望じみた目で写真を見ていた。 「何だかすっごい幸せそう」 表情は完全に弛んでおり、いつもの凛々しさは何処へやら。 すっかり乙女の顔になっていた。 「お前はなんつー顔をしているんだ……?」 操の表情を見た優一は、なぜか戦慄に顔を凍り付かせていた。 「……」 完全にムードをぶち壊す優一の言葉。操の浸っていた世界は虚空へ雲散霧消してしまった。
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