真夏日の呼び出し

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「先生結婚してたんですか!?」 先ほどの怒りは何処へやら、驚天動地の表情で操が訊く。 「おう。言ってなかったっけ?」 「俺も初耳ですが……」 明子と付き合いの長い優一も驚きを隠せないでいる。 あるいは結婚『していた』ではなく、結婚『出来た』の方に驚いているのかも知れない。 「なるほど……。じゃあ、休憩がてら聞かせてやろう。私と旦那の馴れ初めを」 ニヤリと笑い、明子はいつもの椅子に座った。 それに習うように操は床にちょこんと座り、優一は自らを埋めていた本を押し退け押し退けて足を投げ出した。 「さて、どこから話そうか……」 明子は記憶を探るように顎に人差し指をあてた。 「そうだな。私と旦那は幼稚園からの幼なじみだ。まぁ、付き合い始めたのは大学からだがな」 「幼なじみと結婚ですか。何だか漫画みたいですね」 操は目を爛々と輝かせている。 「でも、幼なじみってお互いを知りすぎているからうまくいかないって聞いたことがあります」 「それがそうでもないんだよなぁ。実際のところ。お互いの趣味嗜好性格その他もろもろ知り尽くしているから、かえって気兼ねなく付き合えたみたいだ」 明子は照れ臭そうに笑った。 「先生が強引にやり込めたんじゃへぶっ!!」 そして減らず口を叩く優一に向かって分厚い本を投げ、笑顔はそのままに黙らせた。 「んーで、大学卒業と同時くらいに結婚だな。奴さんは気が早くてな。自分が大学院に進むってのに結婚を申し込んできやがった」 そう言って、明子は腕を組んだ。 「私はもう教職に就くことが決まっていたからな。とりあえず申し込みを受理して、仕方なく養ってやったのさ。私の実家ぐるみで」 まったく計画性が無い、と付け加えていたが、その顔は何だか幸せそうだった。
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