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「マジですか!?」
顔の土をすっかり落とした優一が、本の山の中から飛び出した。
「うむ。これを見たら帰りたくなった。旦那は大学に居ると思うけど、子供は実家に預けてあるからな」
「旦那さんはどこで講師を?」
「神武大学だ」
「父さんと同じ大学か……。今度聞いてみよう」
「ま、帰る前に一仕事しようか」
明子は紐で縛った本の大群を指さした。
「とりあえず、今日まとめたやつをゴミ置場に運んできてくれ。それでおひらきだ」
「……結局俺たちの仕事ですか?」
ジト目の優一を、明子はいつもの笑みを浮かべた顔で見返した。
この顔の前では、どんな抵抗も意味を成さない。
「仕方ない。みさちゃん、早いとこやっちまおう」
ため息を気合いに変え、優一は本を持ち上げた。
「誰がみさちゃんよ。あんた、軽そうな本ばっかり持つんじゃないわよ」
操の前に残されたのは分厚い辞書や学術書。優一が持っているのは文庫本クラスの小さな本だ。
「何を言うか。俺は存外か弱いんだよ。そんな本、持てるわけないだろう」
優一は飄々と本の束を両手で持ち上げた。
大して力を入れていないのは明らかだ。
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