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「まさか水野先生が結婚していたとはねぇ」
「ほんと。びっくりしちゃった」
陽炎が立ちこめる道を二人は歩く。日はいくらか傾いてきたとはいえ、暑さはまだまだ残っている。
「一体どんな手管を使って旦那さんを陥れたんだろう」
「……あなた、本気で言ってるの?」
二人の手にはスポーツドリンクのペットボトルが握られている。明子が今日の報酬としてよこしたものだ。
「結婚かぁ。私もいつか、いい妻、いい母親になりたいなぁ」
空を仰ぐ操。
今日の彼女はどこまでも乙女チックだった。
「貰い手……いや、拾い手があったらな」
優一はスポーツドリンクを呷る。自分が無意識のうちに乙女心を傷つけていることを、彼は知らない。
「今日はやけに突っ掛かってくるわね。なんか恨みでもあるわけ?」
「別に。俺はあくまでも事実を言ってるだけだ」
どこまでも平静な優一。
少しだけ、動揺させてみたくなった。
「ふーん……。まぁいいわ。どうしてもダメならあなたに拾ってもらうから」
刹那、優一がぴたりと足を止めた。
「……」
そしてまじまじと操を見つめる。
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