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「あれ?電話?」
突然机の上に置いてある携帯がバイブレーションを始めた。
(誰だろう)
携帯を開いてディスプレイを見るが、その番号に見覚えはなかった。
11桁ということは携帯電話の番号で間違いない。ずっと呼び出し続けていることから、どうやらワン切りの類でもなさそうだ。
(……?)
悩んだところで呼び出しが止まるわけではない。
とりあえず出てみることにした。
「もしもし?」
『よぅ。立花。元気にしてるか?』
聞き覚えのある声が受話器から響いた。
「水野先生!?」
『おぅ。そーだぞー』
明らかに声が笑っている。
千歳の脳裏には、電話の向こうで意地悪くニヤけている明子の顔が浮かんだ。
「どうして私の番号を知ってるんですか?」
明子に携帯の番号を教えた記憶はない。それなのに、どうして明子は電話が出来たのか。
『私にも独自の情報網があるんでな。ちょいと調べさせてもらった』
情報漏洩が問題視されている昨今、もはやどこから漏れたのかも見当が付かない。
独自の情報網というは多分冗談だろうが、明子なら裏の世界と繋がっていてもおかしくはない為、冗談には聞こえなかった。
千歳が感じた寒気は、おそらくクーラーによるものではないだろう。
『そうそう。用件なんだがな』
思い詰めた千歳を余所に、明子は話を続ける。
『今から学校に来い。ちょっと頼みたいことがある』
「今からですか!?」
別段予定があったわけでもないが、こちらの都合を顧みない、それでいて断ることを許さない声色に、千歳は驚いた。
『そうだ。待ってるからな』
「あっ、ちょっと!先せ――」
言いおわる前に明子は電話を切った。
「なんだったんだろう……」
嵐のような出来事だった。
明子は特に忙しそうではなかったが、何しろ夏休みの呼び出しだ。きっと重要なことに違いない。
千歳はそう判断した。
「お母さーん!ちょっと出掛けてくるねー!」
自分の部屋を飛び出した千歳は、慌ただしく階段を下りていった。
外界は快晴。
日焼け対策は必須だ。
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