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「暑い……溶ける……」
優一は自室の勉強机に突っ伏していた。
机の端に追いやられた問題集にはいくらか解いた形跡があり、宿題を早めに終わらせようという気迫が伺える。しかしこの暑さ故、どうやら集中力が続かなかったらしい。
(朝の涼しいうちにやろうと思ったんだけどなぁ……)
大きな誤算だった。
この夏、涼しい時間帯などない。
太陽は朝から全力疾走で、その勢いを一日中キープし、次の日も前日の疲れなど微塵も見せない姿で駆け抜ける。その繰り返しだ。
お陰で、朝は暑さで目が覚め、夜はまた暑さの中でまどろむ。
当然熟睡など出来るわけがない。
「くそぅ。クーラーすら無いなんて……」
足元では扇風機が回っているが、それだけでは心許ない。
なぜ自分の部屋にクーラーが無いのか。
優一は家の間取りを考えた両親を恨んだ。
(みんなはどうしているのかな?)
操はこの前会ったばかりだから、元気なことは確認している。
稔は軽井沢に住んでいるという祖父母を訪れているらしい。まぁ生きているだろう。
「立花さん、か」
どことなく薄幸で、可憐な花を思わせる彼女。
操のように、夏空の下を元気に走っている姿は想像出来なかった。というか、この炎天下の中に放り出したら、瞬く間に萎れてしまいそうだ。
「いや、待てよ?」
肝心なことを忘れていた。
彼女は代々医者を生業とする家系に生まれ、高級住宅街に軒を連ねる立派な豪邸に住んでいる。
いわゆる良家のお嬢様。
決して薄幸なわけがない。
恐らく彼女の部屋には、クーラーが完備されていることだろう。
「くっそー。これが格差社会かー」
優一は上体を起こし、椅子の背もたれにその身を預けた。
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