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「おん?電話?」
机の上の携帯がバイブレーションしている。家でもマナーモードというのも、ある意味習慣と言えよう。
「はいはい今出ますよー」
優一は預けていた身を反動をつけて起こし、携帯を手に取った。
「誰ですかー?」
携帯を開いてディスプレイを確認する。
「……」
水野先生。
ディスプレイには、確かにそう表示されていた。
「……また、呼び出しですか?」
明子の電話番号は、この前電話が来た時、万が一に備えて登録しておいたものだが、どうやらその万が一がもう来てしまったようだ。
不安が優一の頭をよぎる。
(出ないわけには、いかないか)
このまま切りたい衝動に駆られたが、それをやってしまったら最後、何をされるか分かったものではない。
彼女は猛毒のマンドラゴラを丸噛りせよ、と言いかねない教師であることを、優一自身が一番よく知っている。
携帯は相変わらず震え続け、電飾は優一を馬鹿にするかのように点滅している。
いずれにせよ、こちらが出るか切るかしない限り、向こうも切る気はないらしい。
「……もしもし」
『出るのが遅いぞー。塚越ー』
若干の笑いを含んだ声。
明子も優一が何を考えていたのか、大体予想がついているらしい。
「俺にも色々あるんですよ。で、用件はなんですか?」
『まぁ分かっているとは思うが、今から学校に来い』
これは、優一の予想通り。
「またですか……」
なんでこの人は生徒の都合を考えないんだ。
そう思った優一だが、口には出さなかった。
「分かりました。今から向かいます」
『おぅ。頼んだぞー』
返事をすると、明子の方から電話を切った。
「嗚呼……。俺の夏休み……」
頭を抱える優一。
彼の気持ちを代弁するかのように、足元の扇風機が首を振っていた。
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