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大通りを曲がり、学園に続く坂道を登る。
太陽に向かって一直線に伸びているような、長い長い坂。
もしこの時期に学校があったなら、阿鼻叫喚の地獄絵図となっていただろう。
そんな道を、千歳は鼻歌交じりに歩いていた。
「ふぅ」
時折吹くそよ風が、千歳の髪をもてあそぶ。
暑さの中に独特の心地よさがあった。
ガードレールの向こうには、自分の住む町が広がる。
四方を山に囲まれ、郊外には一級河川『千種川(ちくさがわ)』が流れている。夏はうだるように暑く、冬はしばれるように寒い。
都会というには些か不便、田舎というには若干賑やか。
そのくせ、明神学園などという全国的にも有名な高校がある。
ある意味、不思議な町。
遠くにきらきらと光って見えるは、太陽光を反射する千種川の流れ。
町の中央に構える駅。
住宅街にオフィスビル。
人の流れ、車の流れ。
生活の息吹がしっかりと感じられた。
「ずっと眺めていたい……かな?」
ふと、口をついて出た言葉。
「立花さんはこの町が好きなんだね」
返ってくる、一つの声。
「えぇ。それはもう……」
言い掛けて千歳は固まった。
いつの間にか、自分の隣に人が立っていた。
「つ、塚越君!?」
「おひさしー」
優一はおざなりに返事をした。
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