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「い、いつからそこに!?」
「んー?43秒くらい前かなぁ」
優一は腕時計を見ながら言った。
どうやら相当前から居たらしい。
「居るなら居るって言って下さいよ!」
「まあまあ、そう怒らずに」
全く悪びれている様子はない。それどころか、悪戯を成功させた幼子のような笑みを浮かべていた。
「もう……。恥ずかしいところを見られちゃいました」
そんな顔を見せられては怒るに怒れない。
千歳の怒りは夏のそよ風にさらわれてしまった。
「ま、元気そうで何より」
優一はガードレールに背中を預け、手で顔を扇ぎ始めた。
「そういえば、こんな所で何してるの?」
「水野先生に呼び出されたんです。今から学校に来いと」
千歳の言葉を聞いて、優一の手がぴたりと止まる。
そして、何やら悲しそうな目で千歳を見やった。
「そうか……。次の犠牲者は立花さんか。ご愁傷さまです」
「はい?」
状況がよく理解出来ない。
「いやね、俺も水野先生に呼び出されてるんだよ。今回で二回目なんだけど」
優一はガードレールから身を離した。
「まぁ、行けば分かるよ。話はまた追い追い」
「はぁ……」
千歳は難しそうな顔をして首を傾げた。
ただ、優一の口調から察するに、何やら良くないことが待っていそうな気がする。
遠くの空には、大きな入道雲が頂を築いていた。
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