平凡な日常

9/21
前へ
/396ページ
次へ
「い、いつからそこに!?」 「んー?43秒くらい前かなぁ」 優一は腕時計を見ながら言った。 どうやら相当前から居たらしい。 「居るなら居るって言って下さいよ!」 「まあまあ、そう怒らずに」 全く悪びれている様子はない。それどころか、悪戯を成功させた幼子のような笑みを浮かべていた。 「もう……。恥ずかしいところを見られちゃいました」 そんな顔を見せられては怒るに怒れない。 千歳の怒りは夏のそよ風にさらわれてしまった。 「ま、元気そうで何より」 優一はガードレールに背中を預け、手で顔を扇ぎ始めた。 「そういえば、こんな所で何してるの?」 「水野先生に呼び出されたんです。今から学校に来いと」 千歳の言葉を聞いて、優一の手がぴたりと止まる。 そして、何やら悲しそうな目で千歳を見やった。 「そうか……。次の犠牲者は立花さんか。ご愁傷さまです」 「はい?」 状況がよく理解出来ない。 「いやね、俺も水野先生に呼び出されてるんだよ。今回で二回目なんだけど」 優一はガードレールから身を離した。 「まぁ、行けば分かるよ。話はまた追い追い」 「はぁ……」 千歳は難しそうな顔をして首を傾げた。 ただ、優一の口調から察するに、何やら良くないことが待っていそうな気がする。 遠くの空には、大きな入道雲が頂を築いていた。
/396ページ

最初のコメントを投稿しよう!

90796人が本棚に入れています
本棚に追加